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第1話 第2話 第3話 第4話

【 不定期 連載小説 】
全てのMMOを楽しむ戦士たちに、色を贈ります。
みそ×ジェミー 合同企画 FF14SS 

~僕は、彼女のことを何も知らない~
『明日の朝日は、そこにありますか』

[ 第5話 ]  キャンプ炎上



<登場人物>
・リュウ: ミコッテ♂を使うプレイヤー。リアル世界に嫌気が差している。
・タマキ(茉莉環):リュウが出会った不思議なプレイヤーキャラ。

・ゼン:リュウが所属しているLSのマスター。ハイランダーの男性。
・ぐっちゃん:アウラ女性。人懐っこい元気な性格。
・サイフォス:冷静なLSの仲間。リアルでは教師。ハイランダー。
・ララ:リュウのことが好きなミコッテ女性のプレイヤー。
・アダマス:ミコッテの女性。猫言葉を使う。

・チャイ(中萱壮介):タマキを付け狙う謎の少年。
・黒い騎士:エドワードという名前。ある組織と通じているようだが…。



睨むように眺め回され、タマキは怪訝そうな顔をララに向けた。

「あの……それで、どこに行けばいいのでしょう……?」

小さな声でそう聞く。
タマキに問いかけられ、ララの顔が一瞬、気づかれない程だったが嫌悪に歪んだ。

「こっち。ついてこれる?」

そう言われ、歩き出したララの後ろについて行く。
少し歩くとキャンプのエリアに出た。
リムサ・ロミンサほどではないが、割と活発な大きめのキャンプだ。
ララはタマキがついてくるのを確認すると、足早に路地裏に入っていった。
慌てて追いつこうと角を曲がったタマキが見たのは、彼女がテレポで何処かに消えた残滓の光だけだった。

「え……?」

呟いて呆然とする。
タマキは知らないことだったのだが。
どの世界にも、華やかなところもあれば、スラムのような淀んだ場所がある。
このゲームも同様だった。
タマキが連れてこられたのは、普通のプレイヤーは寄り付かない、いわゆるアンダーグラウンドの場所だった。
RMTの温床になっている場所や、いかがわしいことをサービスとしているプレイヤーキャラクターがたむろしている場所もある。
置き去りにされたのは、そういう場所だ。
そこでぐっちゃんからの個別通信が入り、タマキは耳に手を当ててしゃがみこんだ。

『ええ? タマちゃんなんでそんなとこにいるの?』

素っ頓狂な声で聞かれる。
彼女の位置情報を見てびっくりしているらしい。

『え……あの……』
『場所の座標分かる? ああ、いやそれよりも早くそのキャンプから出て! 走ってでいいからマジで!』

切迫した声を聞いて、タマキは青くなった。
それは彼女の声の調子もあることだったのだが。
何より、自分が大きな男性のプレイヤーキャラに囲まれていたからだった。

「あ……」

呻いたような声を出して、思わず通信を切ってしまう。
暗くて何の種族かも分からなかったが、ただ一つ、タマキにとってはっきりしていることがあった。
その、彼女を見下ろす目が。
あまりに無機的で。
怖かった。

「見かけねえキャラだな。こんなとこで何してやがる」

語気荒く言葉を投げつけられてビクッとする。
そのうちの一人が、乱暴にタマキの被っていたフードを掴んだ。
そして無理やり引きずるように掴み上げる。

「ここで商売するってことは聞いてねえな。GMのスパイか? キャラ情報チェックしろ!」
「何だこいつ、IDバグってるぞ」

勝手にタマキの情報を見た男の一人が声を上げる。
ポンチョの胸ぐらを掴み、顔を覗き込んできた男性キャラの怒りの顔を見て、タマキは息を飲んだ。
何も言えなかった。
こんな間近で、怒りをぶつけられたのは初めてのことだったのだ。
何もできなかった。
こんなに直接、理不尽を叩きつけられたことが、タマキには今までなかった。

「PKエリアに連れていけ! バカになるくらいぶっ殺してやれ!」

プレイヤー同士が戦うことができるエリアがある。
それは知っていたので、タマキは引きずられそうになって、慌てて小さく叫びながら身を捩った。
フードが脱げて、ポンチョがずれ、隠していた髪と羽がむき出しになってしまう。
男達は座り込んだタマキを見て少しポカンとしていたが、やがて目の色が変わったように言い始めた。

「おい……こいつ」
「間違いねえ。動画は全部削除されちまったが、昨日アップされてたチーターだ!」
「写真、撮れ! 早く撮れ!」
「録画回せ!」

タマキは耳を塞いだ。
聞きたくなかった。
見たくなかった。
ただ、恐ろしかった。
自分に向けられる奇異の目と、悪意。
そしてそれすべてを統合する、圧倒的な理不尽が。

(やっぱり……)

唇を噛む。
痛みを感じる機構はないが、おそらく、現実の私の唇は破れている。

(私は、ここにいちゃいけない人間だったんだ……)

「データの書き換え完了。すべての設定をニュートラルへ」

そこでタマキは、やる気がなさそうな男の子の声を聞いた。
いつまで経っても、男達の怒声は聞こえなかった。
暴力もない。

「いつまでそうしてるの?」

気だるそうにそう聞かれ、タマキは弾かれたように顔を上げた。
目の前には、黒いフードつきのコートを羽織った少年がいた。
ハイランダーにしては妙に小さい。
子供キャラだ。
でも、そんなキャラ実装されてたかな……そう思ったところで、彼はフードの奥の赤髪を揺らしながら、金色に鈍く光る瞳で、タマキを見下ろした。

「何してんの? 環ちゃん。何バカみたいな反応してんの」

呆れたように言われ、しかしタマキはそれに答えることなく、少年の背後で、時間が止まったように停止している男達を見て、青くなった。

「この人達のデータをいじったの……?」
「…………」
「どうして私の名前を知ってるの? あなたも……テスター?」

伺うように聞かれ、少年は肩をすくめてタマキの前にしゃがみこんだ。
そして手を引いて彼女を立たせ、フードをそっとかぶせる。

「僕が君の名前を知ってることは、割とどうでもいいことだ。だからそれについては答えない」
「…………」
「テスターかどうかと聞かれれば、そうだともそうじゃないとも言える。まぁ確かに、『前は』テスターだったけどね」
「あの……」
「ん?」
「強制的にプレイヤーキャラとリアル接続の遮断をするのは、プレイヤーの脳に大変な負担をかけるから、絶対やっちゃいけません」

タマキは胸の前で手を握り、少年を睨んだ。

「今すぐこの人達の拘束を解いてください」
「んん? 何この展開。君は本当に不思議な子だね」

しかし少年はバカにするように鼻を鳴らすと、手近な男に手を当てた。

「別にいいじゃない。クズさ。こんな奴ら。ここにいちゃいけないんだ」

彼の手が白く発光し、男の体が光の飛沫になり、一瞬で消えた。
唖然としたタマキの前で、少年はパチンと指を鳴らした。
残りのプレイヤー達も、蜃気楼のように揺らめいて消滅する。

「終わり。ゴミ掃除はちゃんとやらないと。こういうゲス共は、二度とこの世界にログインさせちゃいけない」
「IDから抹消したの……? どうして?」

震えて手元に口を当てたタマキに、少年はニッコリと笑って言った。

「目障り」

その一言に、頭を殴られたかのような衝撃を受け、タマキはよろめき、背後の壁に背中をつけた。
少年は腕組みをしてその様子を見ていたが、やがて息をついて近づき、タマキのことを覆いかぶさるように見つめた。

「環ちゃん。提案があるんだ」
「て……提案……?」
「うん。簡単なことだよ。僕と一緒に、このMMOの中で生きていくつもりはない?」
「え……?」
「君もなんだろ? テスターってことは。君も、いずれそうなんだろ?」

畳み掛けられるように問いかけられ、タマキは息を飲んで視線をそらした。
少年はその反応を見て、満足そうに頷くと、タマキに向けて手を伸ばした。

「あいつらの干渉を完全に拒絶するパスを知ってる。そうすればもう、ここでなんだってできる。僕が君を絶対に守る。だから、僕と一緒に遊ぼう」
「そこまでだ、被検体ナンバー3」

そこで抑揚を殺した声を受け、少年は舌打ちをして顔を上げた。
そして目を怒りに燃やしながら、剣を抜いて路地裏に足を踏み入れた黒騎士……エドワードに怒声を張り上げる。

「今いいところなんだ! 邪魔するとてめえも消滅させるぞ!」
「……中萱壮介(なかがやそうすけ)君だな。君は」

落ち着いた声で言われ、彼は動きを止めた。
そして歯を折れんばかりに噛み締め、大声を発する。

「その名前は捨てた! 今の僕はチャイだ!」
「自分の名前を捨てることはできん。そして、責任も投げ捨てることは出来ない! 君はテスターとしての仕事を放棄しているな。今すぐ戻れば、私が何とかしよう」

黒騎士にそう言われ、チャイと名乗った少年は右手を彼に伸ばした。

「データ構成率を変更。物理障壁の完全貫通属性を魔法に付与」

小さく呟くチャイの手の先に、赤く、燃え盛る巨大な球体が出現する。
黒騎士は歯噛みして剣を構えた。
そしてタマキに向かって叫ぶ。

「ナンバー4! 今すぐログアウトするんだ! ベルグには状況を伝えてある、早く!」
「死ねよ。クズが」

吐き捨てるようにそう言い、チャイが手の先から巨大な熱球、ファイガを発射した。
それは通常の魔法とは異なり、弾丸のような速度で吹き飛び、周囲の建物や地面に黒い焦げ跡と火の余波を広げながら、一直線に黒騎士に襲いかかり……。
そして、炸裂した。
しかし口元をほころばせたチャイが見たのは、吹き上がる炎の中……。
黒騎士を庇うように間に入り、チャイに向けて右手を伸ばしている、タマキの姿だった。
彼女の周りだけ炎が消えていく。
しかし、チャイの放った炎は消えることなく、周囲の建物に燃え移り、たちまちキャンプに火の手を上げた。

「何してんだよ……」

チャイは、こちらを睨みつけているタマキに、震える声で叫んだ。

「何してんだよ環ちゃん!」
「あなたの言うこと、とても良く分かります。気持ちも、私、よく分かる。多分、それであなたを責めることは出来ないんだよね」

か細い声でそう言い、タマキは背中の羽を大きく広げながら腕を横に振った。
彼女のまわりの炎が、白い光にかき消されて消滅する。

「でも……これは、悪いことだよ」

そう言われ、チャイは息を飲んで硬直した。
タマキは困ったような、何ともいえない表情をしながら、チャイに言った。

「一緒にテスターやろう? テストが終われば、私達はきっと……」
「そんな未来は……こない!」

チャイがそう、声を張り上げた。
そこで黒騎士が地面を蹴立てて走り出し、少年に切りかかった。
舌打ちをしたチャイの姿が青い光に包まれる。
そして、そのまま彼は消えた。
地面にへたりこんだタマキを見て、黒騎士は駆け寄ろうとし……。
しかし、彼女の名前を呼びながら数人が走ってくるのを見て、足早に路地裏に消えた。


「タマキちゃん、何があったんだ? 今日は早めに仕事が終わったからよかったけど……」

サイフォスが息を切らしながらそう言う。
遅れて到着したぐっちゃんが、青い顔で周りを見回した。
火は消えていたが、建物と地面には真っ黒な焦げ跡が広がっていた。
街中では魔法は使えないはずだ。
それに、フィールドで使ったとしてもこうはならない。
ぐっちゃんに言われて来たらしいサイフォスが、人混みをかき分けながら、タマキを抱きかかえてキャンプを後にした。

「私……」

そう言って、タマキは言葉を飲み込んだ。
ララの顔が頭をよぎったが、彼女は何も言わなかった。

「勝手に歩いちゃだめだよ! あそこは、本当にヤバいプレイヤーがたくさんいる場所なんだ。心配したよ」

ぐっちゃんが珍しく声を張り上げる。
そしてチョコボを呼び出し、タマキを引っ張り上げた。

「ごめんなさい……心配させて……」

か細い声でそう言ったタマキの脇に自分のチョコボをよせ、走りながらサイフォスは口を開いた。

「君は……」

そこで彼は、チョコボに乗って走ってくるリュウの姿を見て口をつぐんだ。

「キャンプから火が出たって大騒ぎになってる。タマキがあそこにいたから、急いできたんだ。何かあったのか?」

駆け寄ったリュウに言われ、タマキはしばらく考え込んでいたが、やがて決心したように息を吸い、言った。

「皆さんにお話します」

三人の視線を受け、タマキは目を伏せながら小さな声で続けた。

「私は……私達は、ズルをしています。それに、代償を払っているからです」
「代償……?」

リュウに問いかけられ、タマキは顔を上げ、やるせないように小さく笑ってから続けた。

「もう少しで私は、死んでしまうんです」 



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文:ジェミー(天寧霧佳)  挿絵:みそ(ここでセーブするか?