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【 不定期 連載小説 】
全てのMMOを楽しむ戦士たちに、色を贈ります。
みそ×ジェミー 合同企画 FF14SS 

~僕は、彼女のことを何も知らない~
『明日の朝日は、そこにありますか』

[ 第3話 ]  完全消去



<登場人物>
・リュウ: ミコッテ♂を使うプレイヤー。リアル世界に嫌気が差している。
・タマキ:リュウが出会った不思議なプレイヤーキャラ。羽がある。

・ゼン:リュウが所属しているLSのマスター。ハイランダーの男性。
・ミラ:ミコッテ女性。ざっくばらんな性格をしている。
・ユフィ:ララフェル女性。物静かで知的な喋り方をする。
・ぐっちゃん:アウラ女性。人懐っこい元気な性格。
・アダマス:独特の雰囲気を醸し出しているミコッテ女性。語尾が特徴的。
・ユキノ:寡黙なルガディンの女性。無口だが優しい。

・黒い騎士:エドワードという名前。ある組織と通じているようだが…。
・ベルグ:エドワードと通じている女性。事情を知っている様子。
・フードの少年。タマキを狙っている謎の少年。



時間はあっという間に過ぎ、午前0時をすぐに回ってしまった。
アダマスはインしたまま寝落ちしてしまったのか、しばらく離席の表示を頭の上に出していたのだが、やがて自動的にログアウトしてしまっていた。
もう、かなり遅い時間だ。

「お、もうそろそろ寝る時間だ。あたしは落ちるよ」

ミラがそう言って片手をヒラヒラさせる。
いつの間にか太陽も沈んで、あたりは暗くなっていた。
温泉それ自体がぼんやり光っているので周囲の様子は把握できる。
今まで楽しそうに話を聞いていたタマキが、ミラの方を見てきょとんとした後、不安そうに肩をすぼめた。

「明日も仕事だからね。早く寝とかないと、体がもたんのよ」
「そうですねえ。私もそろそろお暇します」

ユフィがそれに続くと、ぐっちゃんが頭の角を指先でこすりながら頷いた。

「ごめん、私も仕事だよ。週始めだから、遅刻するわけにはいかないの。また明日ね!」

戸惑うように周りを見ていたタマキだったが、システムウィンドウを呼び出し、そこに表示されている「0時30分」の表示を見て、表情を曇らせた。

「そう……ですね。普通は寝る時間なんだ……」

彼女の不穏な呟きを聞いて、ゼンがサングラスの奥の目を向け、口を開いた。

「社会人が殆どだからな。みんな、だいたい0時周辺には寝るよ。タマキちゃんは大丈夫なのか?」
「あ、いえ……」

タマキは煮え切らない苦笑を返し、下を向いた。

「私は……」
「とりあえず話は後々。あたしはここで落ちるよ。じゃーね!」

ミラが端的に言って、手を振りながら、蜃気楼のようにスゥ、と消えた。
ログアウトしたのだ。

「私も眠気が限界です。みなさんも早く寝るんですよ」

続けてユフィも消えてしまった。
ぐっちゃんが苦笑しながら、固まっているタマキの肩をポンポンと叩いた。

「帰りも乗せてあげるよ。近くのキャンプに行こうか」
「あ……はい。ありがとうございます……」

どこか引きつったような笑顔を返すタマキ。
ぐっちゃんは気にしていないようだったが、それを見ていたユキノが、僅かに目を細めた。
パン、と手を叩いてゼンが立ち上がり、普段着を装備する。

「とにかく、暗いしレストエリアに戻ろう。リュウ、お前もう少しインしてるんだろ?」

問いかけられて、僕は頷いて立ち上がり、鎧を装備した。

「まーな。仕事は明日から休みだし」

それを聞いて、タマキが顔を上げて安心したように目を開く。
全員マウントに乗り、近くのキャンプまで移動する。
道中の敵をゼン、ユキノと一緒に倒しながら、リュウはグランチョコボの後部座席で表情を曇らせているタマキを、不思議そうに見た。
みんなが寝ると言った途端、彼女の様子がおかしくなった。
何か、やはりあるのだろうか……。
そう考えて息をつく。
隣のゼンも同じことを考えていたようで、彼は僕の頭に個別通信を送ってきた。

『今日は俺のFCハウスに泊めるよ。でもどういうことだ? 夜型なのかな』
『分からないな……何か事情がある家庭なのかもな』

言葉を返しながら、温泉近くのキャンプに到着した。
基本的にレストエリアにはモンスターは寄ってこない。
安心して休める場所だ。
酒場の席に腰を下ろしたところで、手を振ってぐっちゃんがログアウトした。
所在なげに立ち尽くしていたタマキが、ユキノに無言で手を引かれて椅子に座る。
ユキノはそのまま電子メニューで二人分の炭酸ジュースを注文した。
すぐにテーブルの上にジョッキのジュースが現れる。
促されて口に運んだタマキの前に、ゼンとリュウも腰を下ろした。

「さて……これからどうするかなんだけど。タマキちゃんは何時頃まで起きてるんだ?」

ゼンに問いかけられ、タマキはビクッとして縮こまった。

「どうした?」

不思議そうに問いかけられ、しかし彼女は何かを言おうとして言い淀んだ。
そしてしばらく沈黙したあと、ためらいがちに答える。

「私……その……あんまり、寝なくても大丈夫なようなんで……」
「いや、大丈夫ってことはないだろう。無理はいけないよ。脳波通信はやっぱり休憩を取らないと。お風呂とか食事もあるだろうし……」

僕がそこで口を挟むと、タマキは困ったような、つらそうな、いびつな……何とも言えない固まった苦笑を周りに向けた。

「あの……ほんとに、大丈夫です……」
「どういうことか、よく分からんな。詳しく説明してくれないか?」

ゼンに突っ込まれ、タマキがツバを飲み込んで、ポンチョの裾を手で掴む。
それを見て、腕組みをして聞いていたユキノが口を開いた。

「私は明日休みだから。朝方まで一緒にいよう」
「え……本当ですか?」
「いいよ。ゼン、あんたのハウス使わせてもらうよ」

有無を言わさない声で言われ、ゼンは息を吐いて肩をすくめた。
肯定と取ったのか、ユキノは足を組んで炭酸ジュースを口に運んだ。
そして僕の方を見て言う。

「リュウも来るんだろ?」
「ああ。心配だから行くよ」
「悪い、俺はそろそろ寝ないといかん。明日大事な商談があるんだ」

ゼンがすまなそうに言って、サングラスの位置を直した。

「なるべく早く帰ってくるようにするよ」
「分かった。とりあえずグリダニアに飛んで、ラベンダーベッドに行くよ」

ユキノに促され、タマキは頷いて立ち上がった。
そこで、僕らは少し離れたところで「パァン!」という炸裂音がしたのを聞いて、そちらに視線を向けた。

「何だ……?」

他のプレイヤーが点在しているのが見えるが、一様にざわざわと怪訝そうに周りを見回していた。
そのうちの一人の体が少し浮く。
紫色の光と共にテレポしようとしたプレイヤーだったが、また炸裂音がしてジャンプできず、その場に尻餅をついた。

「不具合か? テレポできないのか?」

ゼンが立ち上がって声をかける。

「何かこのキャンプから外に出れないみたいなんだよ。テレポも無理だ」

他のプレイヤーからそう説明され、ゼンは怪訝そうにキャンプの出入り口まで歩いていった。
そして出ようとしたところで、したたかに何か見えない壁に頭をぶつけ、尻餅をつく。

「……何だァ?」

ポカンとした彼を見ながら、ユキノがテレポをしようとしてやはり失敗して、地面に座り込んだ。

「バグだね。GMコールしよう」

周りの様子を見て、僕はそう言ってシステムウィンドウを開いた。
その時だった。
タマキが「ひっ」と声を上げて、口元を手で覆った。
彼女の視線を追うと、そこには全長5メートルを超える巨大な影があった。

「え……?」

モンスターだった。
その巨大な影は、キャンプの入り口にあったテントを踏み潰し、やすやすと中に入ってきた。

「おいおい、何かのイベントか?」

ゼンが武器の斧を装備しながら言う。
僕はモンスターの情報を、ターゲットを合わせて表示させ……息を呑んだ。
情報ウィンドウを覗き込んだユキノも停止する。

「アグリッパが何でこんなところに……それにレストエリアじゃ……」

ゼンがそう言って、迎撃しようと、巨大なモンスター……黒い鎧のアグリッパが繰り出した斬撃を受け止めようとする。

「ダメだ! 避けろゼン!」

僕は反射的に叫んでいた。
Sモブのアグリッパ。
このエリアでは見たことはないが、何回も戦っている。
勝てない相手ではない。
しかし、普通ポップするアグリッパは、レベル50。
僕達は今のところカンストしているので、レベルは60。
普通に考えれば勝てるはずだ。
だが、表示されていたのは……。
本当か、嘘かは分からないが。
『アグリッパ Lv.100』
という文字だった。

「え……!」

アグリッパが振った剣に、ゼンの体が簡単に両断された。
血が出たり、真っ二つになったりはしない。
しかしゼンはそのまま地面に崩れ落ちて動かなくなった。
HPがゼロになり、行動や会話が不能になってしまったのだ。

「おいおいマジかよ!」
「何だあれ……!」

周囲も気づいたらしく、動揺のざわめきが広がる。
続いてアグリッパは、驚くほど俊敏な動きで剣を振り、手近な数人を瞬く間に死亡状態に変えた。
おかしい。
何かやばい。
慌てて、硬直しているタマキの手を掴む。

「リュウさん、ゼ、ゼンさんが!」
「大丈夫、後で生き返らせる! 君はレベル1だから、隠れて!」
「リュウ!」

ユキノが声を上げ、僕らとアグリッパの間に割って入る。
しかし彼女も、レベル100の斬撃を受け止めることができずに、一瞬で死亡状態になってしまった。
倒れ込んだユキノを見て、タマキが震えながらペタリと座り込む。
彼女の手は、僕の手を強く握りしめていた。
それを握り返して、左手の盾を構える。
僕のHPは3万ちょっと。
ゼンのHP、4万近くが一瞬でゼロになったのを見ると、斬撃一発はとても耐えられない。
テレポができないのも気になった。
何なのかはさっぱり分からないが、戦ったほうが良さそうではあった。
しかし……。
考える間もなく、アグリッパが大上段に剣を振る。
僕はそれを受け止めず、剣で受け流してから、敵の足に斬撃を叩き込んだ。
しかし表示されたのは、剣撃が当たらなかったことを示すアラートだった。
敵の攻撃が来る。
まずい。
そう思った時には、アグリッパが繰り出した足が僕の胸にめり込んでいた。
そのまま空中を吹き飛ばされて、テントを倒壊させながら落下する。
ゲームなので痛くはなかったが、それでも訳が分からなくなり、視界が暗転する。
HPはわずかに三桁残っている程度。
しかし、回復している時間はない。
吹き飛ばされた時に手を離してしまい、アグリッパの前にタマキが置き去りにされていた。

「タマキちゃん!」

叫んで、間髪をいれずに剣を構えて走り出す。
それに対して、アグリッパは異常な反応速度で、僕に向けて大剣を繰り出した。
避けられない。
当たる……!
しまった、と体を硬直させた時だった。

「やめて!」

タマキが引きつった声で叫んで、背中の羽を大きく広げた。
白い光が彼女の足元に浮き上がり、そして光の柱となって吹き上がった。
アグリッパが動きを止め、タマキを恐れるように、僅かによろめいてから後ずさりをする。
タマキは、人が変わったように、金色に鈍い光を瞳から発しながら、右手をゆっくりとモンスターに伸ばした。

「……書き換えプログラムを使います。強制干渉開始。全ての設定をニュートラルに。データを完全消去します」

小さく呟き、タマキは手を握りしめた。
アグリッパが苦しむように身じろぎし、膝をつく。
その巨体が数秒も立たずに、白い光の飛沫となって、空中に霧散をはじめた。
たちまち光の粒になり、アグリッパは風に吹かれて、その場から消えてなくなってしまっていた。
タマキの目の光がフッ、と消え、彼女は気絶したのか、その場に倒れ込んだ。

「タマキちゃん! 大丈夫か!」

慌てて駆け寄ってタマキを抱き上げる。
しかし、彼女の頭の上に、回線遮断のアイコンが点滅し、程なくして彼女の姿が掻き消えた。
ログアウトしてしまったようだ。

「……何、だったんだ……?」

僕は、周囲の惨状を見回して、呆然と呟いた。


「ふん……逃げたか……」

面白くなさそうに呟き、キャンプ脇のクリスタル結晶の上に立っていた少年が、手に持っていたガムを口に入れた。
マントのフードの位置を直し、ガムをクチャクチャと噛みながら、ポケットに手を突っ込んで、猫背の姿勢で息をつく。

「もうちょっと頑張ってくれると思ったんだけどな……ま、イン直後にあれだけできたんだから、上出来か」
「そこまでだ。被験体ナンバー3」

そこでチャリ、という音がして、少年の背後から剣が伸び、首筋に当てられた。

「お前を隔離エリア、モルディオン監獄にテレポアウトさせる。モブとレストエリアのデータ書き換えに関して、聞きたいことがある」

少年の後ろには、黒い甲冑を身にまとった男が立っていた。
少年はニヤ、と口が裂けそうなくらい開いて笑うと、振り返って、いきなり黒騎士の剣を手で無造作に掴んだ。
血は出ず、ものすごい力なのか二人がしばし睨み合う。

「抵抗は許さんぞ」
「脅すのかい? だけど、あんた達には、もう俺は止められない。俺は選ばれた存在なんだ。これからは好き勝手やらせてもらう」
「許されると思うのか!」

黒騎士に押し殺した声で怒鳴られ、少年は馬鹿にするように見下した目を、彼に向けた。

「許されるよ。だって。俺はあんたよりも現実、強いからね」
「何……」
「ファイガ」

呟いてから、少年は黒騎士に向けて、右手から巨大な火球を放った。
それはクリスタルの一角ごと黒騎士を吹き飛ばすと、それでも飽き足らずに森の木々を押し倒しながら数百メートルも進み、そして爆炎を上げて炸裂した。
視界のはるか向こうに黒騎士が吹き飛ばされたのを確認して、少年は、紫色の光を纏って浮き上がった。

「さて、環(たまき)ちゃん。楽しく遊ぼう」

呟いた少年の姿が、テレポの残滓と共に消えた。


すぐに森の火は沈下したが、鎧から焦げた煙を立ちのぼらせながら、黒騎士は立ち上がった。
そして少年の姿がもうないのを見て歯噛みする。
彼は耳に手を当て、通信を送った。

「ベルグ、応答しろ。ナンバー3に逃げられた」

通信を受け、彼の脳内に静かな女性の声が響いた。

『やっぱりね……あの子、自分の体をいじってる……』
「どうする? 本部にはまだ報告していないが……」
『エドワードは引き続きあの子を追って。私から本部には説明するわ』
「分かった。他のGMも出してくれ。それと……」

少し言いよどんでから、エドワードと呼ばれた黒騎士は、相手に問いかけた。

「被験体ナンバー4は大丈夫なのか? ログアウトしたようだ」
『問題なく眠っているわ。意識がオーバーフローしただけのようね。GM達は、そこのキャンプに向かわせてるわ。安心して』
「分かった」

答えて、エドワードは通信を切った。
そして歯を噛み締めてから、足を踏み出した。



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文:ジェミー(天寧霧佳)  挿絵:みそ(ここでセーブするか?