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【 不定期 連載小説 】
全てのMMOを楽しむ戦士たちに、色を贈ります。
みそ×ジェミー 合同企画 FF14SS 

~僕は、彼女のことを何も知らない~
『明日の朝日は、そこにありますか』

[ 第2話 ]  温泉に行こう



<登場人物>
・リュウ: ミコッテ♂を使うプレイヤー。リアル世界に嫌気が差している。
・タマキ:リュウが出会った不思議なプレイヤーキャラ。羽がある。

・ゼン:リュウが所属しているLSのマスター。ハイランダーの男性。
・ミラ:ミコッテ女性。ざっくばらんな性格をしている。
・ユフィ:ララフェル女性。物静かで知的な喋り方をする。
・ぐっちゃん:アウラ女性。人懐っこい元気な性格。
・アダマス:独特の雰囲気を醸し出しているミコッテ女性。語尾が特徴的。
・ユキノ:寡黙なルガディンの女性。無口だが優しい。

・黒い騎士:タマキを監視している謎の男性。ある組織と通じているようだが…。



「それで、ここまで連れてきたってわけか?」

戸惑ったような声を受けて、僕は鼻の頭を指先で掻きながら息を吐いた。

「しょーがないだろ。ほっとくわけにもいかないだろうし……」
「つってもなあ……運営関連のスタッフか何かじゃないのか? ネットで調べてみたけど、あんな種族はまだ実装されてないぞ」

困った顔で考え込んだのは、体の大きなハイランダーの男性だった。
上半身裸で、黒光りする筋肉が太陽に光っている。
逆立った髪に、サングラスをかけている青年だ。
僕が所属しているLSの友達、ゼンだった。
彼は顎に手を当てて考え込むと、ワイワイと騒いでいるLSの他の一団から距離を置いた、FCハウスの玄関で、そちらの方を横目で見た。
タマキを連れてきて、集まっていたLSのみんなに説明してから数分。
とりあえずハウスの所有者であるゼンと、詳しく事情を整理していたところだった。
タマキは他のLSメンバーに、洋服やミニオンをもらったりして、嬉しそうに笑っている。

「何かのバグを利用してるプレイヤーだったら問題だな」

ゼンがそう言い、僕は考え込みながら頷いだ。

「それも考えたんだけど、どうもそれにしちゃ、事情が分からなすぎる。通報するにしても、確固たる違反証拠があるわけじゃないし……」
「GMに聞いてみてもいいんじゃないか? 本人もよく分かってないんだろ?」
「そこまでするのはどうかな……さっきフレンドになったばっかだし……」
「でも、レベル1ですでにリムロミからグリダニアまでテレポできるなんて、かなりおかしいぞ」

不思議そうに言われ、僕は口をつぐんだ。
タマキは、ワープ魔法であるテレポを、エーテライトを解放もしてないのに、殆どの場所をすでに覚えていた。
理由を尋ねたら、暗い顔で

「ごめんなさい……」

と呟くばかりで、話にならなかった。
立ち話をしているのもまずいし、また人に取り囲まれたくもない。
仕方ないので、ラベンダーベッドのゼンの家に避難したわけだ。
ふぅむ、と呟いて腕組みをしたゼンの視線を追い、またタマキ達の方を見る。
LS内の全ての人に説明したわけではなく、とりあえず集まっていたメンバーに軽く事情を言っただけだ。
みんなも怪訝そうな顔はしていたが、最初泣きそうになってしまったタマキに気を使ったのか、彼女に装備などをあげているうちに意気投合してしまったらしい。

「染色できないけど、ポンチョならあるからあげるよ」

ミコッテ女性のミラがそう言ってウィンドウを操作する。
タマキは送られてきたアイテムを見て、息を呑んで目を丸くした。

「わぁ、いいんですか?」
「いいよいいよ。値段も下がってきてさっぱり売れないからさ」

ざっくばらんにそう言われ、タマキはたどたどしい手つきでポンチョを装備した。
そして暖かそうな生地を撫でて笑う。

「ありがとうございます!」
「気にしないでいーよ」
「羽はそのままなんですねえ」

今度は隣に座っていた、子供のような種族、ララフェルの女の子が口を開いた。
ユフィという子だ。
彼女はタマキの羽を指先で弄びながら、軽く首をひねった。

「てゆうか何これ?」
「まぁ、見る限り羽だよね」

水着のような大胆な鎧甲冑に身を包んだアウラの女の子が肩をすくめる。
彼女はぐっちゃん。
とりあえず集まっているメンバーはその四名。
集まりはじめなので続々と後ほど来ると思われるが、現段階で、一通りの説明はみんなにしてある。

「うーん……キャラクター情報とかIDが文字化けしてて分かんないね」

ウィンドウを操作しながら、ミラがそう言った。
タマキは申し訳なさそうに肩をすぼめた。

「ごめんなさい……詳しいことは、その、言ってはいけないことになってて……」
「何で?」

ポカンとしてぐっちゃんが聞くと、タマキは視線を宙に泳がせて、足を体の方に引き寄せた。

「そう言われたんです……どうしてかは、その……」
「まぁチーター(違反者)って訳でもないみたいだけど……」

ユフィが頬に手を当てて言う。

「言いにくいのを無理強いするのもねえ……」
「まぁ、いいんじゃないの? そういうもんだって思えば」

ミラが割と投げやりにそう言って、息をついた。
ぐっちゃんが呆れたようにそれに返す。

「また面倒になると適当そうなこと言う」
「別に悪いことしてないんだからいーじゃん。可愛いと思うよ、その羽」
「本当ですか?」

小さな声で聞かれて、ミラは笑ってそれに返した。

「うん。まぁ、ポンチョで隠してれば、ハイランダーに見えなくもないし」
「てか、ゼンとリュウは何してんの? こっち来なよ」

ぐっちゃんに言われて、僕とゼンは顔を見合わせてから、家の一角、ソファーが並べられたエリアに移動した。
そして腰を下ろす。

「まぁ……みんながいいならいいんだけどさ」

周りを見回し、ゼンはソファーに背中を預けて、サングラスの位置を直した。

「いいも何も、どうしようもないじゃん。IDがわかんないから、GM呼ぶわけにもいかないし」

ミラがそう返すと、ユフィも小さく息をついて続けた。

「ご本人も、あまり触れたくなさそうですからね。ま、LS全体に知らせることもないとは思いますけど、ツンケンすることもないかと」
「だねー。ツイッターには書かないほうがいい?」

ぐっちゃんがあっけらかんと聞いてきたので、僕は反射的に口を挟んだ。

「いや……それはどうだろ。やめといたほうがいいんじゃない?」
「ツイッター?」

きょとんとして口を開いたタマキに軽く笑いかけて、ぐっちゃんはその小さな肩にポン、と手を置いた。

「嘘だよ、そんなことしないよ」
「とりあえず、アクティブメンバーには説明しといた方がいいな」

ゼンがそう言ったので、僕は頷いて続けた。

「とりあえずここにいれば、安全っちゃ安全だし」
「すみません……」

小さくなって謝ったタマキに、ゼンは手を振ってから言った。

「ああ、君を責めてるわけじゃないよ。LSマスターは俺だから、一応ね。とりあえず、俺達は君をいじめたりはしないから、ウチに入る?」
「いいんですか?」
「うん。ただ、羽は隠してた方がいいな。不思議に思う人もいると思うし」
「わかりました」

頷いたタマキに、LS招待のメッセージを送り、ゼンが機能を説明する。
程なくしてタマキがLSに加入したことを示すアイコンが視界の端に点灯した。

「おーい、新しいメンバーだ。タマキちゃん、女の子! よろしく!」

ゼンが短く紹介すると、他の場所にいるLSメンバーが次々に歓迎のメッセージを送ってくる。
タマキは目を白黒させながら、耳に手を当ててLS通信に声を送ってきた。

「タ、タマキです。よろしくおねがいします……」

一通り紹介と挨拶がすんでから、僕達は息をついた。

「そーいえば、リュウは仕事辞めてきたんだっけ? タマキちゃんのインパクトが強すぎて、すっかり忘れてたけど」

ミラに言われて、僕はそこでやっと自分のことを思い出し、頭を掻いた。
LSのみんなにはいろいろ相談していたので、事情を全員知っている。

「あー……うん。明日から有給」
「良かったじゃん。ブラック企業なんかやめちまいなー」

あっけらかんとそう言ったミラに、ユフィが手元のメモ帳で何かを計算しながら続いた。

「残業代とか請求しました? 計算によると、随分入ってくるはずですけど」
「したよ。相手の回答待ち」

頷くと、ゼンが太ももをパン、と手で叩いて立ち上がった。

「俺も忘れてた。今日はそれで、気晴らしに温泉に行こうって話になってたんだよな」
「そうそう。もう何人か行ってるよ」

ぐっちゃんが頷く。
僕は軽く笑ってから言った。

「マジでか。そりゃいいな」
「折角だし、タマキちゃんも来るか? あっちにいる奴らも信用はできるから、俺達の近くにいれば大丈夫だ」

ゼンに問いかけられ、タマキは迷っているのか、おどおどと周囲を見回した。
そして僕の方を、困ったように見る。
僕は軽く笑いかけ、彼女に言った。

「誰かのマウントに一緒に乗れば、場所分かんなくても行けるよ。フィールドに温泉が湧いてるんだ」
「温泉……? 私、温泉に行くの、初めてです」

タマキがそう言うと。メンバー達は不思議そうに顔を見合わせた。
その沈黙を、手を叩いて吹き飛ばし、ゼンが言った。

「ま、考えててもしょーがない。行くぞ」


タマキはぐっちゃんの二人乗りチョコボの後部座席に乗り、風を感じながら、キラキラした目で周りを見ていた。
まるで初めて外に出るような。
そんな、好奇心に溢れた、嬉しそうな顔だった。
少し強い敵がいるので、ミラとユフィが先行して倒してくれている。

「すごい……」

僕もチョコボを走らせながら脇に寄せると、タマキは感動したように呟いた。

「これがゲーム……?」
「まーね、FFはグラフィック綺麗だしねえ」

ぐっちゃんが笑いながらチョコボの手綱を操作した。

「それがウリでもあるし。リアルの風景より綺麗だって言われてるよ」
「本当。私、こんな綺麗な景色見るの初めて」

小さな声で言い、タマキは目を閉じて息を大きく吸った。

「空気も美味しいです」
「温泉であったまれば、もっと気持ちいいぞ」

ゼンがそう言って、乗っていたスレイプニルを脇に寄せた。
僕はそこで彼に、個別チャットを送った。
少し気になることがあったからだった。

『現地に行ってるのは誰?』
『アダマスさんとユキノさんだな。後は、ちょっとクリタワとかマハ行ってるみたいだ』
『ならいいけど……』
『見た感じいい子みたいだし、ちょっと様子見ようぜ。それに……』

ゼンはサングラスの奥の目でタマキを見た。

『何か、気にかかるんだよな』
『何が?』
『……いや、まぁ。今はいいよ』

会話を打ち切られて、進行方向に意識を集中させる。
程なくして、温泉がいたるところに湧いているエリアに出た。
そこに至るまで、ゼンが個別チャットで説明していたようで、すでに水着になってお湯に浸かっていた二人が、立ち上がって手を振った。
一人は体が大きく、褐色のルガディン女性、ユキノ。
もう一人は、ミラと同じミコッテ女性のアダマスだった。
ルガディンのユキノが、ゼンに助けられてチョコボを降りたタマキを見て近づいてくる。
巨大な彼女に見下ろされて、タマキは目を白黒とさせた。
腕組みをしてしばらく見下ろしていたユキノだったが、やがて無言で、タマキにトレード要請を送った。
そして水着を一式、取引覧にのせる。

「え……?」
「下着で入るわけにもいかないからね。これでも着ておきな」

軽く笑いかけられ、タマキも安心したように笑顔になる。
遅れて周囲の敵を掃討していたミラとユフィも合流する。
眠そうな顔をしていたミコッテ、アダマスが、温泉に横たわりながら言った。

「へー、その子が天使ちゃん?」
「天使?」

首を傾げたタマキに、彼女はアハハと笑って手招きした。

「見せて見せて。綺麗な羽あるんでしょ? 羨ましいニャー」

言われて、タマキは少し躊躇した後、ユキノから貰った水着に装備を切り替えた。
白い羽がフワァ、と風になびく。

「すっごーい! 何それ何それ! かわいいニャー!」

アダマスが手をパチパチと叩いて声を上げる。
ゼンが息をついて、全員のマウントを小屋の係留所に繋いでから、水着になって近づいた。

「ってなわけで、今日からウチで保護することにしたタマキちゃんだ。仲良くしようぜ」
「よ……よろしくお願いします」

小さくお辞儀をした彼女の手を引いて、ミラが温泉に入る。

「ま、とりあえずあったまろう。羽、お湯に入れても大丈夫なの?」
「多分大丈夫だと思います」

全員で深い温泉に入ると、体をじんわりと温かい感触が包んだ。
大きく息を吐いて、空を見上げる。

「リュウ、おっさんくさい!」

アダマスが笑いながらそう言う。

「まだおっさんじゃねーよ!」

突っ込むと、お湯に肩まで浸かっていたタマキが、口元に手を当てて笑った。
それを見て、周りの表情も柔らかくなる。
気心の知れた、いい奴ら。
僕の、大事な仲間達だった。


温泉で騒いでいる一団を、少し離れた崖の上から、座り込んで双眼鏡で監視している、一人の影があった。
黒い鎧をまとった、男……のように見える人影は、双眼鏡を脇に置くと、耳元に手を当てた。
そして低い声を発する。

「定時報告です」
『本部だ。彼女の様子はどうだ?』

通信の先から男性の声がする。
黒い鎧の男は、眼下の様子を見ながら続けた。

「現地のコミュニティの一つに保護されたようです。コミュニティの構成員のキャラデータを分析。本部に転送します」
『君の方から接触はしなくてもいいのかね』

問いかけられ、男は少し考えてから淡々と言った。

「どうやら、その必要は今のところないかと」
『了解。引き続き監視を続けるんだ』
「分かりました」

プツッ、と音がして通信が切れる。
男は鎧を軋ませながら立ち上がった。
そして双眼鏡を覗き、ゼンとリュウの顔を凝視する。
それから、嬉しそうに笑っているタマキに視線を送った。

「……実験か……賛同しかねるな」

小さく呟き、彼の体が青い光とともに僅かに宙に浮く。
そして鎧の男は、テレポの光とともにその場から掻き消えた。



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文:ジェミー(天寧霧佳)  挿絵:みそ(ここでセーブするか?